第1章 トリップ
秀吉に疑われ、その場から逃げ出すように走り出した蜜姫をなつは目で追うだけだった。
「良いのか?」
「私は、彼女とは先ほど知り合ったばかりだ。」
「ほう?それで、お前は「褒賞が欲しいわけではないけど、どうやら住む処がなくなったみたいだな。」・・・」
信長の言葉を遮り、なつは妖艶に微笑む。
「まぁ、取り合えず彼女を連れ戻すのが先決か・・・」
なつはそう呟くと蜜姫を追うようにその場を離れた。
「御館様。」
「追え。2人とも連れてこい。安土に連れ帰り傍に置く。」
「しかし・・・」
「彼奴らが何者であろうと、俺の命を救ったことに変わりない。」
「・・・御意。」
信長の言葉に、秀吉たちは2人を探すため兵を動かした。
一方、なつは周りの気配を確認し、あり得ない速さで山中を駆けていた。
そして、5分と立たないうちに蜜姫を見つけ出した。
「ここにいたか。」
「?!!あ、さっきの・・・私たちタイムトリップしちゃったんだよね?」
「みたいだな。私はなつだ。」
「あ、蜜姫って言います。よろしくお願いしますなつさん。」
「敬語はいい。それにさんもいらん。歳もそう変わらんだろう。」
「あ、えっと分かっ・むぐ!」
戸惑う蜜姫の口を塞ぎ、静かにするようなつが指示する。
「おや、こんなところに若い娘さんが。」
そこに現れたのは、顔に大きな傷跡のある袈裟を着た男性だった。
それを見たなつは、悟られぬよう、構える。
対照的に蜜姫は少しホッとしたように肩の力を抜き返答した。
「あの、あなたは?」
「私は顕如と言う。お嬢さん方はこんな夜更けに何を?」
「えっと・・・」
「何にしろ早く家に帰るといい。怖い鬼がうろついてるかも知れないからな。」
「忠告、感謝しよう。行くぞ。」
「え?」
顕如の言葉に、なつは蜜姫の腕を引きその場を足早に離れた。
「あ・あの・・・」
「あの坊主はあまり信用できない。むやみに関わらんほうが身のためだ。」
それから、幸村や信玄に謙信、そして、あの時確かにいた佐助と出会うのだった。