• テキストサイズ

意のままに

第5章 動き出す運命




約束通り、秀吉はなつの部屋を訪れた。

「早かったな。行くか。」
「待て!!」
秀吉は出て行こうとするなつの腕を掴むと部屋へ引き戻し、襖を閉めた。

「なんだ?」
怪訝そうな顔をするなつに秀吉は・・・
「城の中はこの際諦めるが、きちんと着ろ!!」
秀吉は言いながら、なつの着物の合せを直していく。

「別に、問題ないだろう。」
なつは文句を言いながらも大人しくしていた。

「よし。ったくお前は仮にも織田家ゆかりの姫なんだからな。」
「ああ、そんな設定あったな。」

なつは未だ不満げにしていたが、そんななつを促し城下へ下りて行った。


「それで?何か見たいものはあるのか?」
「反物。」
「分かった。」
秀吉は城下で一番の反物屋に向かう。
「賑わっているな。」
「お館様が色々な規制を取り払っているからな。」

あぁ、楽市楽座か。

考え事をしながら歩いていれば、不意に秀吉がなつの腰を引き寄せた。
「?!」
そのすぐ横を大荷物を抱えた人が通り過ぎていく。
「大丈夫か?」
秀吉は当たり前のように、顔を覗き込む。

そんな秀吉に、不覚にも胸の鼓動が早くなるのを感じた。
「どうした?顔が赤いぞ?」
「ッ・・・何でもない。それより、あれか?」
なつはごまかすように笑みを浮かべ、丁度見えてきた店を指す。
「ああ、遠慮するなよ。」
秀吉は人の好い笑みを浮かべ、嬉しそうに中へ入っていく。

これか・・・天然の人たらし。

なつは内心ため息を吐きながら、後に続いた。
しかし中へ足を踏み入れれば、鮮やかな反物に目を奪われる。

暫く、見て回ったが他の反物に隠れるようにして置いてあった物が目に留まる。

「へぇ、綺麗だな。」
なつが手にしたのは、鮮やかな漆黒と若草色が混ざった生地に蝶や花々が華美に刺しゅうされたもの。

「それは・・・確かに綺麗なのでございますが、如何せん色合いが難しくて。」
店主の言うように、黒が白ならば良かったが、
誰にでも着こなせるような代物ではないだろうことはだれの目にも分かる。
が、なつならば似合うとなぜか秀吉は確信していた。


/ 130ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp