第3章 破滅【嘘】
「止まれ!止まれぇーっ!」
ヒヒィーンと馬が鳴くと同時に、馬車はアイのすぐ目の前で急停止する
「だ、大丈夫かいお嬢さん!?」
『は、はい…』
駆け付けた店主がそう声をかけると、アイは力が抜けた様にぺたんと道に座り込んでしまう
それと同時に先程買ったリンゴは辺りに転がり、店主が慌ててそれを拾い上げた
「おい娘、今すぐそこを退け。今すぐに道を開けるなら罪には問うまい」
馬の手綱を握る男がアイを睨みつける
「ほら、立てるかいお嬢さん?」
果物屋の店主はアイの肩を抱き立ち上がらせようとするが
『も、申し訳ありませんっ、力が入らなくて…すぐに退きますのでどうかお許しを…っ』
「えぇい!ロヴォフ様の通る道を塞ぐとは…!どこの家の者か答えろ!この無礼者めが!」
へたり込むアイに向かって男は躊躇いもなく馬に使う鞭を振り上げた
「だ、旦那様!ど、どうかお許しを!」
『っ!旦那様危ないっ!』
アイを庇う様に目の前に飛び出して来た店主に、思わずアイは声を上げた
??「…待て。お前は主人に公衆の面前で恥をかかす気か?」
「も、申し訳ありませんロヴォフ様…!」
見渡せば何事かと住人が足を止め、いつの間にか辺りの人々は大勢の見物客と化していた
寸手のところで付き人は鞭を振り下ろす事を諦め、アイをキツく睨みつける
『あ、ありがとうございます…ロヴォフ様の馬車とは知らず、私はとんでもないご無礼を…』
アイは店主の肩を借りヨロヨロと立ち上がると、馬車から降り立った人物へ深々と頭を下げた
この人物こそアイが目的としていた人物
ニコラス・ロヴォフだった