第3章 破滅【嘘】
いつ訪れても華やかな賑わいを見せる王都
この三重の壁に守られた仮初めの平和の中で暮らす人々は、あいも変わらず同じ顔をしている
"平和ボケ"
…そんな言葉が良く似合う
調査兵団本部を出立して暫く、馬車に揺られ王都に到着した頃にはすっかり陽が昇っていた
アイがここへ来た目的はただ一つ
"ニコラス・ロヴォフが行なっている不正の証拠の入手"
「お嬢さん、今お一人かな?良かったらお茶でもいかがでしょう?」
『折角ですが、先約がありますので』
街を歩き出してからというもの、アイに声をかける紳士は後を絶たない
着替えを済ませたアイの身なりは普段の兵服とは打って変わり、何処ぞの貴族と何ら変わりない気品に満ちた出で立ち
見目麗しい容姿も合間って、彼女の事を誰もが振り向き
「美しい…」と揃って口にする
『すみません、リンゴを5つ程頂けないかしら?』
「おや、これはなかなか見かけない美しいお方だ。リンゴは誰か良い人へのお土産ですかな?」
『えぇ、特別な方への贈り物です』
大通りにある果物屋を訪れリンゴを買う
優雅に振る舞うその姿は誰が見ても貴族のお嬢様そのもの
「それはそれは。その方が羨ましい、では良い話を聞かせて頂いたお礼に一つ私からの贈り物という事で受け取って下さい」
そう言って店主はリンゴを一つ手に取り、それを差し出す
『あっ』
リンゴはアイの手から滑り落ちコロコロと大通りの真ん中へ転がって行く
『待ってっ!』
アイは咄嗟に長いスカートの裾を掴んで走り出した
「お嬢さん危ないっ!」
そこへ馬車が走って来るのが目に入った店主は叫び声にも似た声を上げ、アイの後を追う
『っ!きゃあぁぁ!』