第6章 破滅【完】
エルヴィンSide
それから程なくして
コン、コン
『…お父さん、アイです』
数回のノックの後、聞き慣れた声が静かな部屋に響く
ドアを開けると同時に、アイは私の胸に飛び込んで来た
エルヴィン「っ!アイ…よく帰って来てくれたな」
『うんっ…』
無事に帰って来てくれたアイを強く抱きしめる
だが、その身体からは生きている筈の人間の体温が感じられない
まるで氷のようだった
防寒着を着ていても凍える寒さだというのに
アイが身に付けている服は袖も無ければ、胸元と背中が大きく露出してしまっていて
殆ど衣服の役目を果たしていない
そんな中を馬で走り続けて来たアイの白く透き通っていた肌は、霜焼けによって痛々しい程赤く染まり
身体は寒さで震えていた
エルヴィン「こんな服一枚で…お前という奴は…」
その痛々しい姿に、思わず抱きしめる力が強まる
『急いでいたから、コートを貰って来るの忘れちゃって…。でももういいの、今こうしてお父さんに温めて貰っているから』
アイはそう言って微笑みながら、私の胸に頬を寄せた
エルヴィン「…温かいか?」
こんな服を着せて、あの男がアイに何をしようとしていたのかは大体見当がつくが…
心地良さそうに目を細めるアイの表情で全て分かる
『うん、とっても…』
何も奪われてはいないんだ、と…