第9章 だから人生は素晴らしい
「……どういうつもりなの!!?」
ドアを開けた途端
2階からママの金切り声が聞こえて
異様な雰囲気に慌てて階段を駆け上がった
開いたままのドア
覗いたそこには、ママと、お兄ちゃんの姿
「どうしたの?」
生活感のある、いつも散らかってるお兄ちゃんの部屋
いつの間にか片付いてる
ダンボールやゴミ袋が部屋の片隅に纏められてた
「……おかえり」
ママとは裏腹に穏やかに笑うお兄ちゃん
驚いてるのに、何処かで私はこの日を予感してた
「お兄ちゃん出てくの……?」
「……うん」
「そう」
私が妹だって事は記憶に留めてくれたお兄ちゃん
小さい頃の思い出も幾つか話したね
私が覚えてない些細な事も沢山
まるで、もう二度と会えないみたいに……
「何を考えてるの!?
これからどうするつもり!?」
出て行こうとするお兄ちゃんに、ママはまだ喚いてて
そのせいもあって、私は酷く冷静だった
「会いに行くの?」
「……なんのこと?」
涼しい顔して、私を見るその瞳は
何も変わってないよ
お兄ちゃんは頭のいい人だけど
やっぱり何処か不器用だから
きっとそういうの、私の方が得意だよ
「私ね。大好きなひとがいたの。
お兄ちゃんは覚えてないだろうけど。
すごく、すごく素敵な人だったの。だから、
その人には幸せになって欲しいんだ……」
そう伝えた私の頭を、優しく撫でる
確信に変わった思いは、切ないのに、
嬉しさも入り交じって泣きそうになる
「……もう、会えない?」
お兄ちゃんは、曖昧に笑って、
声にしないで、頼むな、と唇を象った
ずっとずっと、色んな事を我慢してきたお兄ちゃん
何も知らない頃は、僻んでばかりいたけど
月日が流れて、私も少しは大人になって
どれだけ努力してきたのかわかる
私、頑張ってみるよ
色んなこと、諦めたくない
恋愛以外にやりたいこと、他にもあるから
もちろん、素敵な人に出会えた時はまた、恋したいって思う
私とママを順に見てから
お兄ちゃんは深く頭を下げて
ありがとう、と
さよなら、を告げた。