第9章 だから人生は素晴らしい
世界はどんな色してた?
瞼も閉じないのに、真っ暗闇にいるみたい。
俺は何のために生きてるの?
貴方が傍にいないなら、死んでるのとおんなじ。
欲しいのは貴方だけ。
他に何にも望まないのに、どうしてそれだけ手に入らないの…?
きっとこの世に神様なんて存在しない。
ううん。同じ性を持って愛し合ってしまった俺らは
神様に嫌われてしまったんだろう……
それなら、仕方ないね。
生きてる意味なんかない。
俺を認めてくれる唯一が存在しないなら、俺はもう……
「……いつまでそうしてるつもりだ」
病室から追い出されて、取り押さえられたまま
無理矢理乗せられた車で、数年ぶりに連れてこられた家
車から降りられないまま、後部座席でじっとしてた。
「……」
「……変わらないなお前は。
またそうやって、何もかも諦めるのか。
だから、大切なものを手に入れられないんだ」
顔を上げられないまま
唇を噛み締め、拳に力が篭る。
俺の何がわかる?
このひとに俺が理解出来るわけなんかない。
「……わからないよ。お前の気持ちは。
ずっと考えてた……お前が家を出てからずっと。答えは出てない。
ただ…」
黙ったまま耳を傾け、次の言葉を待った。
こんな風に自分に向き合う父親の姿は初めてかも知れない。
「……お前には私の様になって欲しくない。それだけだ」
「……どう、したの……」
こんな言葉、掛けて貰った事なんてない。
こんな表情知らない。
まるで人が変わったみたいだ……
「……可笑しいだろう?
お前なんか必要ないと追い出した人間が、こんな事を言うなんてな」
「……なにか、あったの?」
「チャンスだぞ。全部自分のモノに出来る。
私の目なんか気にしなくていいんだ。
どうせいなくなるんだからな」
老けたと感じたのは歳を重ねただけじゃなかったんだ。
負の感情しかないと思ってた存在なのに、
途端に湧き上がる感情。
心の奥底に押し込んだ、誰にも明かせなかった本音。
兄さんみたいに俺も、
あの大きな掌で頭を撫でて欲しかったんだ……