第9章 だから人生は素晴らしい
3日目で漸く外に出れて
先の見えない不安からは多少解放されたものの
逸る気持ちを抑えることは出来なかった。
しょーちゃんの意識が戻った。
問題は山積みだけど、
今はそんな事よりただしょーちゃんの顔が見たかった。
数年ぶりに肩を並べて車に乗る。
車内は会話もなく息が詰まるだけの重い空気が漂っていて…
「あの、俺…」
家を出ると決めた日から、もう一生頼るつもりなんてなかったのに
結局、こうしてこの人の世話になってる。
条件を出されるのも仕方ない事だけど、
ここでしょーちゃんに会えなかったらなんの意味もない。
「……病院に向かってる」
正直、約束を守ってくれるかどうかも半信半疑で。
俺がすんなりしょーちゃんに会える事が不思議で仕方なかった。
彼女に訴えを引き下げて貰えたのだって、裏で何か動いたのは明白だし
こんな直ぐに会わせてくれるなんて……素直に喜んでもいいの?
「特別に面会を許可して貰えたんだ。
お詫びと言う名目でここに来ている。
わかってるな?」
数歩後ろを着いて歩いて。
高まる鼓動を抑えることが出来ないまま、病室のドアが開いた。
瞬間、肩越しに見えた横顔に、それだけで泣きそうになる。
「……っ、しょーちゃん!」
「お時間を作って頂きありがとうございます。
体調は如何ですか」
しょーちゃんの傍らには、彼女が立っていて…
俺の顔を見るなり不敵な笑みを見せる。
「……まだ本調子ではないんです。
手短に済ませて頂けますか?」
そう促され、ベッドに座ったままのしょーちゃんの前に出る。
ここを後にした時と変わらず、痛々しい包帯や管はそのままで
だけど、真ん丸な瞳は俺を見つめてくれてる。
「……った……ぁ。
しょーちゃん……ごめんね。俺っ、」
溢れそうになる涙を必死に堪えても
上擦った声は上手く言葉にならない。
「……あの、どちら様ですか」
「え…」
久しぶりに聞いたしょーちゃんの声には、ちっとも温度が含まれてない。
返す言葉も状況も理解出来ない俺の背後で、彼女の声が響いた。
「翔さん、何にも覚えてないの。
貴方の事、忘れたみたいよ?」