第9章 だから人生は素晴らしい
結局、その日は閉じ込められたまま
そこから出して貰える事はなかった。
憔悴仕切ってるはずの身体は、
しょーちゃんと会いたい一心だけでどうにか保たれてて。
眠れないまま1晩を過ごした。
2日目を迎えても同じ繰り返しで
執拗な尋問と威圧的な態度に、必死で耐えた。
いくら考えても、ここを出る方法が浮かばなくて
俺の味方は、ひとりしかいない
頼る人なんて存在しない
「おい……面会だ」
「え…」
突然の事に上手く頭が回らなくて、
そんな訳ないのに、しょーちゃんしか頭に浮かばなかった。
「……」
通された留置場
アクリルの向こうに居るのは
もう何年も会っていないひと。
「雅紀…」
どうして……?
自然と身体が強張り目線を逸らす。
「何をしてるんだお前は…」
遠い記憶のままの冷たい声。
呆れたような表情が見なくても想像ついた。
膝の上で握った掌に力を込め俯いてると
思いもよらない言葉をそのひとは口にした。
「櫻井さん、
意識が戻ったよ」
「え…」
しょーちゃんの意識……戻った……?
落ち着かない気持ちが溢れそうになるけど
あまりの違和感に緊張は解けない。
どうして、このひとがしょーちゃんのことを……
「会いたいんじゃないのか」
「……」
裏がある事なんかわかってる。
なのに、何も手段がない俺には縋るしかなくて……
「……会いたい、です……」
「そうか。
その代わり、条件がある」
恐る恐る上げた目線
いつもビクビクしてた父親の存在
怒らせちゃいけない
間違った返事をしてはならない
嫌われないように
呆れられないように
いつもいつも不安だった
このひとにとって俺は必要なのか
疎まれてるだけではないか
そして今も
兄ではなく、俺が死ねば良かったと思っているのだろうか
「……帰って来なさい」
「え…」
厳格で他人にも自分にも厳しいこの人は
決して人を赦したりしない。
あの頃より、随分老けて見えた。
それだけの月日が、経っていたんだ。