第9章 だから人生は素晴らしい
「………」
「黙ってないで答えろ。
お前がそうし向けたのは間違いないだろ」
両手で叩いた机が大きな音を立てガタガタ揺れ
威圧的な空気と蔑むような視線に、緊張が走った。
テレビドラマで見るような、机しかない部屋に閉じ込められて
執拗に聞かれる俺らのこと。
真実じゃない。
だけど、全てを否定も出来ない現実。
「捕まった男と関係があった事は周りの証言からも明らかだ。
“交友関係”が派手な事も、金銭的に余裕が無いことも調べはついてる。
知り合った櫻井さんは、色々と都合良かったんじゃないか」
「……都合良かっただなんて……俺としょーちゃんは……」
「合意の上だったと?」
「……俺は、俺にとっては大切な人です」
「都合よく利用してたんだろ?
あんな婚約者が居てどうしてお前なんかと?
大変なショックを受けてたよ。
可哀想に泣いて……捜してた婚約者があんな目に遭ったなんて。
……訴えるつもりだと言ってたよ」
「え…訴える……って……」
「当たり前だろ。まだシラをきるつもりか」
先輩を追い詰めたのは俺だ。
裏で何かが動いていたとしても、それは紛れもない事実。
先輩の俺に対する気持ちを利用した。
都合良く頼って、裏切った……だけど……
「正直に白状するまで、……わかってるな?」
「ちょっと待って…っ!」
体の大きな警察官に無理矢理拘束され、
暗い留置所に入れられた。
絶望感の中、最善の方法なんて思いつかない。
しょーちゃんの所に帰りたい。
側にいたい。会いたい、会いたい。
留置所の柵の中
膝を抱え、頭ん中はそれしかなくて
きっと大した時間は経っていないのに、永遠に感じる程長くて苦しくて切ない。
幸せだった時間は幻だったのか。それとも夢か。
強くなろうって決めたんだ。
こんな事で、諦めたりしない。
しょーちゃんの処に帰らなくちゃ……
きっと、待ってる。