第8章 ハリボテノシロ
「……ッ!」
向けられた刃先を避けようと、咄嗟に身体を捻らせ後ずさる。
腰からの痛みは次第に酷くなって、動く度に疼いた。
「やめろっ、
お前ッ誰だよっ!」
「お前のせいだ。お前がマサキを唆すから
オレの前からいなくなったんだ…っ!」
いなくなった……?
思考を巡らし、辿り着いた人物
もしかして……マサキが前に話してた、一緒に住もうって誘われてるとかなんとか…
男か女かもハッキリ聞いた事はなかったけど、その相手……?
「愛し合ってんだよオレ達は!
俺の事を好きだって!もう裏切らないって約束したんだ…
上手くいってたのに、なのにっ」
泣きながらそう訴え、俺に向けられる憎悪の眼差し
危険信号は点滅したまま
傷を押さえ、ジリジリと迫る男に必死で距離を取る
どうしたら…どうしたらいい…
「はぁ…っ、は、…ッ」
「お前さえ居なくなればいいんだ…っ…」
纏わり付く雨で視界は悪くて
縺れる脚で抵抗するも、思うように動かない身体は容易く押さえ込まれる
大きな音と共に地面に叩き付けられた身体が、
水溜りに沈んだまま、振り下ろされたナイフを躱した
「やめ…っ、ハッ、ハッ……」
容赦無く刃先は頬を掠め
肩に刺さり
どうにか抵抗しようと刺さしたままの腕を掴んだ
「はな…っ」
空いたもう片方の拳で殴られ
地面に叩き付けられた衝撃で頭がクラクラする
口内に広がる血の味と
全身に広がる痛みと雨の冷たさ
「…消えろ…っ、お前のせいだ……!」
朦朧とする意識の中
霞む男の顔
「お前にわかるか!マサキを失う俺の痛みが!」
マサキを失う痛み?
そんなの………
誰より、わかってる。
「…たの、む…
アイツを…自由に…してやって……」
俺の言葉に
男が何かを叫んで
同時に殴られ
抵抗してた腕も痺れて
真横に広がる視界
缶ビールが俺と一緒に転がってる
雨は止まない。
早く……帰んなきゃ……アイツ待ってる。
また、泣かせちまうかな……
“気をつけてね”……そう言われたのにな。
伏せた瞼の裏
マサキが笑って俺を見てた