第8章 ハリボテノシロ
「あ……しまった」
しょーちゃんの好きなお刺身とあさりのお味噌作って。
少しだけお惣菜やさんで天ぷら買って。
……なのに、肝心のビール買うの忘れてた。
昨日、飲みきったんだった。
アルコール無しなんて、しょーちゃんガッカリするよね。
「そだ。メール…」
帰り道にコンビニでも寄って貰おうって、スマホを手にしたら
インターホンが鳴って、待ち人の帰りを合図した。
「…おかえり」
「ただいま。ほら、コレ」
迎えた俺に満面の笑顔で渡してくれたのは、見覚えのあるスイーツ店の紙袋。
「お前、好きだって言ってたろ。
メシの後にでも食べよ」
「うん!ありがとう」
「お前がさぁー
あんなメール寄こすから、すげー腹減ったわ」
早々にジャケットを脱いで、ネクタイを緩めて
畳んであったスウェットに着替えてるしょーちゃんに、
少し迷って声を掛けた。
「しょーちゃん、ビール…」
「お、飲む飲む。
やっぱり仕事の後はビールだよな」
「しょーちゃんさ、先にお風呂入っててくんない?
俺さ、ちょっとコンビニ行ってくる!ビール買うの忘れてたの」
「え…まじ?」
「うん。だから待ってて」
そう言って、エプロンを外そうとした俺を静止して、
しょーちゃんは、無言でソファーに投げ出してたパーカーを羽織った。
「お前のコレ借りてくわ。
俺が行ってくるよ。マサキはメシの用意しといて。
直ぐ乾杯出来るように」
「いいの?」
「いいよ。そんくらい笑」
「ごめんね。帰ってきたばっかなのに」
「別にコンビニ行くだけだし。
俺のが飲むし」
「じゃあ、お願いしようかな…
あ、雨大丈夫?」
「まだ大して降ってないよ。これで大丈夫だろ」
そう言って、パーカーのフードを被って笑って見せた。
「じゃ、行ってくるわ」
「うん。気をつけてね」
「なにを?笑」
八の字に眉を下げて、ちょっと呆れたように笑ったしょーちゃん。
俺も笑って、パーカーに両手を突っ込んだしょーちゃんの後ろ姿を見送った。