第8章 ハリボテノシロ
いつもより少し仕事が早く片付いて、
たまには外食すんのもいいかなって思ってたけど
会社を出たと同時に届いたメールに、その考えは却下された。
「あー、まじ腹減ってきたわ」
“しょーちゃんの大好物だよ。
楽しみにしてて”
やっぱりウチが良いよなぁ。
最初は焦げたオムレツ作ってたアイツが、
今は殆どハズレがないってくらい上達してる。
俺の大好物?ありすぎてわかんねー
自然と速度の上がる歩くスピードに苦笑する。
毎日毎日、家事もよくしてくれてる。
お互い仕事してるんだし、もっと折半したらいいんだって思うけど……
俺がやったら逆に大変だからって、あんまりさせてもらえない…
だからって、頑張り過ぎないで欲しいんだよな。
いつも笑ってるアイツが無理してるのも、本当は気づいてる。
あの日遠くへ行きたいと言ったことだって、本音だろう。
今にも降り出しそうな、
グレーの空を見上げながら、俺らの事を示唆してるようで
時折、どうしようもなく不安になる。
やっとふたりきりの生活を手に入れたはずなのに、
いつまでこんな閊えを抱いていなければならないのか。
1度、きちんと話しておくべきかもしれない。
お互い理解しあってるからこそ、言葉にする事に意味があるんだ。
じゃなきゃ、やっと手に入れたアイツの笑顔を嘘にしてしまう。
アイツが美味いって言ってた店のケーキを買って帰ろう。
いつも通り晩酌しながら、
今日は真面目な話をしてみよう。