第8章 ハリボテノシロ
「良かったぁ。まだ降ってない……」
朝見た天気予報で、夕方には降り出すって言ってたから、
一応ビニール傘は持ってきてたけど
雨はあんまり好きじゃない。
鉛色の空を疎ましく思いながら、早足で帰り道を急いだ。
しょーちゃんが帰る頃には降るかな。傘持ってったから大丈夫だよね。
そんな些細な心配事に、また不安が過ぎる。
ありふれた日常。当たり前になりつつある毎日。
気を抜いちゃダメだ……
気のせいかも知れないけど、時折感じる視線。
ただ横を素通りするバイクや車にまで神経尖らせてる自分。
ちゃんのことがあってから、
数週間が過ぎたけど、特別なことなんて何も起きなくて。
それならそれでいいに越したことはないのに、
不安は大きくなる。
彼女がこのまま諦めてくれるなんて有り得ないよね。
遠くへ行きたい、そう話したことも
しょーちゃんにとっては、ベッド上の戯言なのかも知れない。
でも、頭の良いしょーちゃんが、このまま平穏に過ごせるなんて、安易に考えてるとも思えないし。
「買い物して急いで帰ろう…」
今日のご飯、どうしようかな。
リスみたいにほっぺた膨らませて、
んまい!って言ってくれるしょーちゃんを想像して、ふふふと笑った。
ふたりでいる時くらい、不安なことは忘れよう。
大好きな人と一緒にいるんだから。
笑ってればいい事がある。
悩み事や辛い事があった時は尚更。
何度も自分にそう言い聞かせてたあの頃。
無理矢理にでも笑った自分が居たからこそ、
今の自分が存在するんだ。
笑って毎日を過ごす事のが、きっと意味があるに決まってる。