第8章 ハリボテノシロ
「……ほい」
「ん、ありがと」
ベッドに沈んだ後ろ姿にそう声を掛け、
冷蔵庫から出したばかりのペットボトルを差し出した。
気怠そうに身体を捻ると、それに手を伸ばす。
細い脚を投げ出し、ペットボトルを数度傾けると
ベッドに潜り込む俺を、マサキの視線が追った。
「……どうした?」
「ん。
なんか、いいなぁって……
こんな、暗い部屋にふたりだけでいるとさ、
世界には俺らしかいないようなそんな気がしない?」
「ふふ。お前、そんなこと考えてたの?」
「……そうだよ。
そうだったらいいなぁって。しょーちゃんは違うの?」
「……マサキ、
お前やっぱり今日どうした?」
「……しょーちゃんは?って聞いてんの」
「いいなぁって思うよ。俺も」
そう返した俺に、満足気な笑顔を浮かべ
張り付くようにくっつくと、小さく囁いた。
「何処か……
もっと遠くに行こうよ。
俺らのことなんか、誰も知らないようなところ……」
「……そうだな」
「そうだよ。そうしよう」
柔らかい髪を撫でてるうちに、疲れてたのか直ぐに寝息を立て始めた。
泣いたせいか少し腫れた瞼。
長い睫毛が小さく揺れる。
いくらふたりでいても、いつも不安は心の奥底に潜んでて。
些細なことでそれは浮き彫りになって。
「ホントだな。
それもいいかもしれないな」