第7章 願うのはひとつ
急かすつもりなんて毛頭なくて
ただ、今の素直な気持ちを打ち明けただけだった。
「好きな人が出来たんだ。初めてだったの。
俺のこと褒めてくれたの、その人が」
マサキの笑顔が切なく映る。
コイツの抱えてる闇は、
太陽みたいな笑顔に隠されてて、簡単には気づけない。
人の痛みがわかるのもきっと、
その痛みを身を持って知ってるから。
「勉強も苦手だったし、
父さんの期待することは何も出来なかった。
身体動かす事は好きだったけど、そんなものは将来役に立たないって」
養子として育った自分と重なる。
完璧を求められた。
無駄な事は許されなかった。
それでも俺は、カタチだけでも
家族と自分の居場所が欲しかったんだ。
「だから俺ね、いつでも笑ってようって決めたの。
出来損ないだって言われる度に落ち込んでちゃ、
ホントに居場所がなくなる気がして」
この場所にいるためには、1番を取らなきゃ。
それ以外は意味がない。
常にトップであり続けなきゃ、またひとりになってしまう。
「そのうちね、誰も俺に何も望まなくなった。
兄さんみたいに気の利いた事も言えないから、お前は笑っとけばいいからって。
そんな風に言われたらさ、笑い方さえわかんなくなっちゃって…そんな時だったよ。
彼女が俺の笑顔が好きだって言ってくれたの」
もしも俺らが
その頃出会っていたとしたら、
悩みを打ち明けられるような親友にでもなれてただろうか。
それとも色んなことを抱えた今だからこそ、
こうして想いを重ねることが出来たのかな。
「こっそり彼女に恋したんだ。
打ち明けるつもりなんてもちろんなかった。
だけどね、彼女に告白されたの。
兄さんより俺が好きだって。
夢みたいだったよ」
鉛色の空を、ガラス越しに眺め
遠い記憶に思いを巡らす様に見惚れてしまう。
愁いを帯びたその横顔に、出会った頃に感じた軽薄さは微塵も垣間見ない。
あの印象も、マサキが被った殻だったんだ。
「兄さんに内緒でこっそり会うようになって、
彼女は兄さんと別れるって俺と約束して…
その夜だった。
兄さんと彼女が死んだのは…」
張り詰めた空気の中
マサキが小さく息を吐くのを
ただ黙って見つめてた。