第7章 願うのはひとつ
小さな不動産屋で条件に合う物件をいくつか紹介して貰って
その中でも1番安い、駅から離れたアパートに決めた。
しょーちゃんはもっと綺麗で便利な所が良かったみたいだけど
俺はこじんまりとしたココがひと目で気に入った。
近所に広い公園があって、散歩なんかしたら気持ちいいだろうなって。
それを言ったら、ジジイかよってしょーちゃんは笑うけど
「仕事もこれから決めなきゃなんないし、
しばらくは生活切り詰めなきゃ」
「お前がそこまで心配しなくても、貯金ならある程度…」
「うん。俺なんか貯金もないしさ、しょーちゃんに甘えてばっかもいらんないし。
わかってくれる?」
「…わかったよ」
この人とずっと歩いていきたい。
甘えたり頼る事も赦される相手だからこそ、出来るだけ負担は掛けたくない。
隣で、対等に生きていきたいって思う。
無理を聞いて貰って、数日後には
その部屋へ入れることになった。
必要最低限の物を買いに行ったりなんかして。
そういえば、デートらしいことなんて勿論、
ふたりで出掛けた事さえ殆どなかったなって…
ものすごく楽しかった。
「恥ずかしいなコレ」
「女の子じゃないんだし、
止めとこうって俺は言ったのに、しょーちゃんが決めたんじゃん」
「なんつーか。ノリだよ!勢い(笑)」
テーブルの代わりに置いたダンボール箱には
赤と緑のお揃いのマグカップが並んでる。
自分で選んどいて、今更恥ずかしがるなんて、
からかったら、ますます赤くなるから楽しい。
「あーもう!
とにかくメシにしようぜ」
ちっとも片付いてない部屋の中
お弁当やさんで唐揚げ弁当を2つ買った。
それだけでも嬉しいなんて、俺も相当浮かれてる。
あっという間に食べ終わると
空き缶を灰皿代わりにしたしょーちゃんが
ぽつりと話し始める。
「別にさ、隠し事はなしにしようとか、そんなルールは要らないけどさ。
お前の過去の事、気になってるのも事実だから
もし、話してもいいって思える時が来たら、その時は聞かせてくれよな」
ゆっくりと言葉を選んで伝えてくれたしょーちゃんに頷いた。
俺ももう、隠そうなんて思ってない。
どんな俺だって、
きっと受け止めてくれる。
「聞いて、くれる?
俺の話」