第7章 願うのはひとつ
“もう1泊しようと思ってるから、
好きに過ごしてたらいいよ。待ってて”
それだけ言い残して、しょーちゃんは出掛けてった。
笑顔を浮かべてはいるけど、
その瞳の奥が不安で揺らいでる事くらい、ちゃんと気付いてるよ。
今まで生きてきたしょーちゃんの道。
エリートコースを歩いて来て、それは確実に誰もが羨む未来を約束していたのに
それをすべて台無しにするんだ。
自分のためだって言うけど…俺といたいからって言ってくれたけど。
本当は迷ってるんじゃないの…?
普通の幸せどころか、俺といたら人並みの生活さえ、手に入れられないかも知れないのに。
身体を埋めたベッドからは、しょーちゃんの匂いがした。
昨晩の行為も、らしくなかった。
いくら久しぶりだったからって、あんなに愛の言葉を囁きながら優しく抱いてくれるなんて。
少し乱暴で自分本位なセックスだったじゃん。今までずっとさ。
「しょーちゃん…ホントに、俺でいい…の?」
他に誰もいないのに、思わず漏れたココロの声。
きっと誰かに頷いて欲しいんだ。
伏せた瞼の裏には、泣きそうな、
だけど優しすぎるしょーちゃんの顔が存在してる。
誰より幸せになって欲しいのに、
自分の感情のまま、この人をこちら側の世界に引き摺り込もうとしてる俺は
……何処までズルいんだろう。
「…離れる気なんて、今さらないのにね」
大事なものは、すべて指の間からすり抜けて何も残らなかった。
だけど、
しょーちゃんは、俺を選んでくれた。
一生に一度の我が儘にしたっていい。
神様、しょーちゃんを俺に下さい。
ウジウジ考えるのはもう止めよう。
もう決めたんだ。
しょーちゃんとふたりで生きてく。
その為だったら俺、何だって出来るよ。