第7章 願うのはひとつ
携帯のアラームが鳴り出し、覚醒しきれない意識のまま
腕を伸ばし、その塊を手探りする。
俺が探し当てる前に途絶えた音に瞼を開くと
「おはよ。しょーちゃん」
鼻に掛かった柔らかい声が降ってきた。
「ん~…お前、起きてたの?」
「うん。なんか目ぇ覚めちゃって。
シャワー浴びてきたとこ」
濡れ髪をタオルで拭きながら、ニコリと笑う。
ああ、そうだ。マサキと居たんだって再確認して、酷く安心する俺がいる。
「しょーちゃん、も少し寝てる?」
「イヤ、起きるよ。
今日は行くとこあるから」
「いくとこ?」
「あのマンション出たから自由ってワケにはいかないだろ。
会社…親父のとこに行ってくるよ」
「…そっか。そうだよね」
不安げな顔色に、大丈夫だよと笑うと
頷いて応えてくれた。
彼女との結婚を拒否した時点で、
自分の思い通りにならない俺は、きっと必要とされないだろう。
引き取られてからずっと、あの人の人形みたいに言われるままに生きてきたんだ。
唯一の居場所だったから。
いくら亡くなった息子の身代わりとはいえ、
必要とされてるって思えた。但しそれは、ガキの頃だけの話だけど。
成長するにつれ、自分の居場所にも存在にも、全てが疑問に思えて。
そのうち、本当の俺を必要としてくれる人なんていないって知った。
だから、アイツだけなんだ。
優等生の殻を被らない、行きずりの男と寝てしまうような俺を、
マサキは真っ直ぐな瞳で見てくれた。
それは多分、抱える闇が少し似ていて。
アイツ自身が俺と重ねた部分があったからかも知れない。
偽りの人生なんてまっぴらだ。
ふたりで生きてくって決めたんだから、きちんと整理しなければ…
シャワーを浴び、簡単な食事をルームサービスで取った後
マサキを置いて、ホテルを出た。
ショーウインドウに映るスーツ姿の自分さえ、紛い物に見えて目を逸らす。
矛盾してるよな。本当の自分なんて自分でもわからないのに。
ロビーを抜け、エレベーターの最上階のボタンを押すと
緊張感から変な汗が滲み出る。
全ての覚悟を訴えるのは簡単じゃない。
それでも、今日
これまでの人生に終止符を打とうと決めた。