第7章 願うのはひとつ
しょーちゃんの背中を見つめながら、
ただ着いて歩くだけで、会話のひとつも思い浮かばない。
覚悟してるはずのココロも、自信なんてまるでなくて、
伸ばせば直ぐ届く掌を、本当に掴んでもいいのかなって、迷ってるのも事実。
それでも本能が
嬉しくて震えてる。
ホントに俺、
幸せになってもいいの?
この人が不幸になるかも知れないのに?
「マサキ、なぁ
腹減らない?」
「え…」
「だからー、腹減っただろ?メシ食おうぜ。
ホラ、丁度いいのある」
しょーちゃんが顎で示した先には、懐かしい店があって、俺は大きく頷いた。
「俺っ、今日はちゃんとお金あるよ」
ポケットに手を突っ込むと、ジャラジャラ音を立て小銭がある事をアピールする。
「ふふ、奢ってやるよ。
あん時みたいにさ」
そう言ってしょーちゃんは、はにかんだ笑顔を向けた。
もしもあの日、しょーちゃんが牛丼屋に入ってなかったら。
俺がもし、お金を持ってたら。
例え同じ空間にいたとしても
たまたま居合わせてただけの客同士で、こうなる事はなかったのかな。
それとも、なにか運命的な力で引き寄せられて
同じ道を辿っていたのだろうか
「どした?
ほら、行くぞ」
運命なんて信じてなかった。
神様なんているはずなかった。
駆け寄って、しょーちゃんの手を掴むと
不意打ちに驚いて、大きな瞳が更に見開く。
きっと嫌がるってわかってたけど
だから、困らせたくなったんだ。
このひとの、全てを許せる唯一が、俺だって信じたくて。
「なんだよーいきなり」
「ふふ、びっくりした?」
ふざけるみたいに笑って店内に入ると
空いてたカウンターの奥にふたり並んで座る。
久し振りに食べたその味は、あの時と何も変わらないはずなのに
喉奥が詰まるような感覚に泣きそうだった。
「たまーにさ、無性に食いたくなんね?
お前お代わりは?」
「大丈夫。一杯で充分だよ」
「まじ?お前また痩せただろ。ちゃんと食えよー」
「なにそれ。おかーさんみたい(笑)」
平凡でいい。
特別なことなんていらない。
ただ、傍にいたいだけ。
願うのは、愛しい人が同じに思って欲しい。それだけ。