第6章 終わりの足音
赦されないことだってわかってる。
それでも、一生に一度何を犠牲にしても貫きたい事があるとすれば……
目の前のマサキに近付き、頭をポンと撫でた。
膝から崩れ落ち、肩を震わせ小さく啜り泣く様は、
いつかの俺みたいだ。
ホントだな。俺ら、何処か似てる。
だからこんなにも惹かれ合ったのかも知れない。
「…わかったわ。とりあえず今日はね。
翔さん、こんな事してお父様が許すわけないわよ。
頭を冷やしておいて」
彼女はそう言い残し、部屋から出てった。
ふたりきりになった空間には、マサキの泣き声だけが響いてて
暫く待っても俯いたままだから
無理矢理、頬を包んで俺と顔を合わせた。
「いつまで泣いてんだよ」
「しょーちゃん…」
「さてと。
こーなったら、もうココにも居れないな。とりあえず簡単に荷物まとめてくるから待ってて」
「え、ちょ、
そんな今すぐ?」
「当たり前だろ。
なんだよ。お前、その覚悟なかったの」
それはそうだけど、って
今更困った顔して…
勢いなんかで決断したわけじゃない。
今まで培ってきた全てをゼロにするんだ。
時間の余裕なんてないよ。
とにかくココを出なきゃ。なにも始まらない。
寝室のクローゼットを広げ、
手当り次第に自分の衣服や小物を詰め込む。
途中で、それさえ無意味な気がして
貴重品を詰めると、ファスナーを閉めた。
「お待たせ。
行こう」
「行こうって、…どこに?」
「さぁ、何処だろね(笑)」
笑ってそう言った俺に、マサキは漸く笑顔を見せた。
そのまま歩き出した俺の後を着いてくる存在に
不安が全くないと言えば嘘になるけど
それより、重くのしかかっていた心の痞が取れて、
少しだけ前を向けた気がしてた。
鍵を掛け、後にしたこの部屋に戻ることはもう無いだろう。
遠ざかるマンションを背中に、
ふたり並んで夜道を歩く。
会話さえ思いつかず、だだ前に進んだ。
行き先さえ決めずに。