第6章 終わりの足音
カタチにした想い。
やっと……言えた。
大きな瞳をさらに大きく見開いた途端、ぽろぽろ涙を零す様は
それだけでぎゅっと胸を鷲掴みにされるようだった。
一度吐露した想いは、堰を切ったように次々溢れる。
言葉が欲しくて
応えて欲しくて
散々誤魔化してきたのは、俺の方なのに
先に言葉にしたからって、変な優越感と身勝手な本質が
状況までも無視して、それだけを求めてた
「お前はどうなの?
俺のことどう思ってる?
ちゃんと、俺見て答えて」
「翔さん、
どういうつもりなの」
何も言わないマサキの代わりに、彼女が話し出す。
必死に冷静を装ってるのが丸分かりだ。
「私を裏切るってこと?」
「……裏切るもなにも。最初から、何もかも作られてたことじゃないか。
結婚だけじゃない。
俺の存在自体そうだから」
彼女はワケがわからないと言うように、俺を睨む。
すぅーっと小さく息を吸い、伏せた瞼に巡る過去。
「櫻井翔は、
この世にいないんだよ。
俺はタダの身代わりなんだから」
「え…」
雁字搦めに生きてきた。
それが、俺に許された唯一の生の意味だったから。
「櫻井家の養子なんだよ俺は。
亡くなった本当の櫻井翔の代わりとして育てられたんだ。
だから、正統な後継者にはなれない。
それでも、俺と結婚したい?」
口を噤んだ彼女の答えなんか聞かなくたってわかる。
でもさ、マサキ?
俺、お前の想いだけはきちんと言葉で聞きたいんだわ。
確信してるって思いながらさ、やっぱり何処か不安なんだって。
握り締めた掌は情けないくらい汗びっしょりで……
「……マサキ」
お願いだから、“俺”を見てよ。
「……俺は、
キライ……」
鼻を啜ったマサキが、赤い目で俺を見つめた。
唇が震えてる。
「……になれたら良かったのに…っ、
無理、だったよ」
掠れた声が確かに響いて
もう、自然と身体が動いてた。
「しょーちゃんが、
好きだよ」
抱きしめた腕の中、届いた声。
想いが……ようやく繋がった。