第6章 終わりの足音
「なにしてんだよ……」
泣いた彼女が、マサキを突き飛ばし俺の胸に飛び込んできた。
露わになった首筋。紅く色付いた白い肌に気付く。
「偶然会ったの。
翔さんに会いたいっていうから私っ」
抱き着かれたままマサキに視線を送る。
面倒くさそうにソファーに座り直し、笑みを浮かべた。
「おかえり。
早かったねー、残念(笑)
そんな怖い顔しないでよ。
ちょっとからかっただけじゃん」
温度のない冷たい瞳
俺の知ってる顔じゃない
それでも、…確信出来るのは何故なんだろう
「……突然どうした?」
「んー?
ちょっとさぁ、お金に困っちゃって。
しょーちゃんなら貸してくれるかなって。そしたらタイミング良く彼女と会ってさぁ」
破れたジーンズ、草臥れたジャケットは、相変わらずあの頃のまま
「お金なら用意するから!
じゃないとまた、貴方に付き纏うわよっ」
俺にしがみついた彼女が、そう叫ぶけど……
本来なら芽生えるはずの感情が、ひとつも湧いてこない
フィアンセが知り合いに襲われただなんて、許せるわけないよな普通なら
……きっと、愛していれば。
だから、わかったんだ
冷めた瞳のヤツの心の内が……俺と同じなんだって
嘘で固めた日々に、これ以上縛られる意味はあるのか
いくら恩とはいえ、俺はもう
解放されてもいいんじゃないか
未だ嘗て、他人に感じた事なかった
目の前にいるという事実だけで
ココロが震えるような感覚を
「……もういい。
うん……もういいから」
「翔さん?」
彼女の掌を掴み、そっと引き剥がす。
見上げる瞳を真っ直ぐに見つめた。
「俺を愛してる?
だから、こんなコトしたの?」
「……え」
「どうなの?」
「翔さん、なに…言ってるの?
私、襲われたのよ?」
彼女の瞳に困惑の色が浮かぶ。
ねぇ、仮にさ
それが事実だとしても、俺は何か感情を抱くことあるかな
「答えて。
俺を愛してる?」
「当たり前じゃない!私達、結婚するのよ!?」
キミが結婚したいのは、誰?
親が求めるのも、会社が求めるのも周りの人誰もかも…
ただひとりを除いては
彼女を引き剥がし、黙ったままのマサキを見つめた