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【S×A】だから人生は素晴らしい

第6章 終わりの足音








平穏に思える日々こそ、

何かが起こる前触れで。



嘘で固めた毎日は、その感覚さえ麻痺させる。



だから……何の予感さえなかった。







いつも通りのメッセージ


“今日は何時くらいになりそう?”



“少し残業して帰るから、先に休んでていいよ”



いつもと同じ言葉を貼り付け、送信する。

従順な婚約者は“わかりました。無理しないでね”と
また、お手本通りの返事が来るはずだったのに

不可解な文字列に、思考を巡らす。




“今日は、出来るだけ早く帰ってきて。
お客様がお見えなの”



義父や義母をお客様だなんて呼ぶわけないし

また友達か?

俺を紹介したいだとかなんとか。



前にも何度かあった。
面倒だなとうんざりしながら、本音は胸に止め

俺も“理解ある優しい婚約者”を演じる。






“わかったよ。

出来るだけ早く帰ります”



ふぅ、と吐いたため息は、重い心にまた影を落す。

偽りだけの日々。それは今までの人生と何も変わりはしないのに



この空虚感はきっと

アイツとくだらない時間を過ごしたせいだ。







オートロックを解除し

インターホンを鳴らしドアの前で待つ。

数秒後には開いたドアから、彼女が顔を覗かせるはずなのに一向にその気配がない。




自らドアを開け、玄関まで届くリビングの明かりに

留守ではない事がわかる。





確かに人の気配はするのに、何の返事もなくて


代わりに何かがぶつかる様な音が響いた。







「……アリサ?」




ドアノブを握りしめたまま、視界に飛び込む光景。


ソファーに横たわる人の影


その後ろ姿が誰かなんて明白で。顔を見なくてもわかった。







「しょ、……さっ、助けて……!」








俺は、

乱れた服装で助けを求める彼女じゃなく


冷ややかな瞳の、アイツを見てた。




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