第6章 終わりの足音
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「好きなんでしょ?
だから彼から離れる事を選んだのよね?」
「……」
「それが正解だと思うわ。貴方といても、彼は幸せになれはしないもの」
「……今さら俺に何しろって……」
覗き込まれてるのに、その目線は頭上から見下ろされてるような感覚。
「簡単よ。
私を襲って欲しいの」
「え…」
「“彼”の前で」
「……どういう……?」
意味がわかんなくて、思わず言葉を詰まらせた。
「きちんと嫌われて欲しいの。
貴方が突然消えたりするから、あの人いつまでも貴方を忘れられずにいる」
「……しょ…ちゃん、が……?」
「だから、完全に関係を断ち切って欲しいの。
中途半端な別れ方だとね、思い出って美化されるのよ。
例えそれがどんなくだらない事でも」
しょーちゃんが、俺の事を忘れられずにいる?
そんなわけない。
そんなこと、あるわけない。
「……気づいてなかったの?
あの人、貴方の事好きよ」
しょーちゃんが、俺の事、好き?
ドクン、と大きく波打った心臓は、冷めきった身体に熱を齎す。
喜んじゃいけないのに、俺の奥底に眠った感情が悲鳴を上げてる。
本人からじゃない、第三者からの確証もないセリフに
ココロが、震えてる。
「貴方が大事に想う人は、
不幸になってしまうでしょう?
それなら、彼の幸せの為に協力して」
「……しょーちゃんのため…」
「そうよ。
彼の為」
彼女の瞳に映る自分の顔
掌で触れた頬には、涙が流れてた。
しょーちゃん、俺ね。
もうこれ以上、誰も不幸にしたくない。
しょーちゃんが俺の事をホントに想ってくれたとしたら
俺はそれだけで、
これからも生きていけるって思うんだ。
「……どうしたらいい?
言う通りにするから。
そしたら、しょーちゃんは幸せになれるんだよね?」
……そんなの、キレイゴトだって言われるかな?
俺ね。それでいいんだ。
これ以上、キタナイ俺を貴方に知られたくない。