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【S×A】だから人生は素晴らしい

第6章 終わりの足音





雑踏の中



華奢な背中と明るい茶髪を見掛ける度に、声を掛けそうになる




口を開き掛けた瞬間

その背後が少し違う事に気付いて、出した右手を引っ込めた。




「翔さん、お待たせ。

あと一件だけ付き合って貰いたいんだけど大丈夫?」

「もちろん」





彼女の笑顔に笑って応えて、
絡んだ腕を素直に受け止める



予想通りの未来

誰もが羨む人生

俺は間違ってない





「翔さん。

やっぱり素敵。私が選んだネクタイ良く似合ってる」

「みんなにも言われたよ。
センスいいって」

「ほんと!?嬉しい」





彼女と暮らし始めてひと月になる。

彼女の父親が用意したマンションで
彼女好みの家具に囲まれ

彼女の選んだスーツやネクタイに身を包み

彼女の理想に徹する





「ねぇ、翔さん、

翔さんはどんなのが好き?

私に着て貰いたい服とかある?」

「……今のままで充分だよ。

なんだって似合うし。可愛いと思ってるよ」

「……ありがとう」





彼女の笑顔の翳りに気付かないフリをしている。

ぎゅっと込められた力に、罪悪感がないわけじゃはいけど……






あの日

最後に抱いたヤツのぬくもりを、

俺はまだ手離せずにいた





俺の前から姿を消してしまったアイツ


そんな予感が全くなかったわけじゃなかったのに、




どうして俺は、最後までマサキに

優しい言葉のひとつ、掛けてあげられなかったんだろう







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