第6章 終わりの足音
俯いた私の背後で響いた音は、玄関のドアの音
しんと静まり返ったリビングは、私の泣き声だけが響いてる
覚悟したのに。カタチからでも距離を縮めれば
何かが変わったかも知れないのに…
どうして上手く出来なかったんだろう
好きって気持ちだけじゃ、どうにもならないって痛感する
涙を腕で拭って、脱ぎ捨てた服を拾って……
ぺたんと床に座り込んだ
マサキさん、何処に行っちゃったんだろう
私のことなんか嫌になったよね
きっともう、会ってくれないかも知れない
話すことも、あの笑顔を見ることも出来ないかも知れない
そう思ったら、またじわりと涙が滲んで……悲しくて、胸が痛くて
その時だ
鳴り響いたインターホンに反応した私は…
顔を上げて、モニターを確認することもなく玄関に向かってた
少しでも同情してくれたマサキさんが、戻って来てくれたんだって思い込んでいて
鍵の掛かってないドアが、音を立てて、ゆっくりと開いた
「マサキさん…っ!」
マサキさんを呼ぶ私の声は、虚しく宙に消える
代わりに綺麗なソプラノが、耳奥に響いた。
「あなた、確か翔さんの…」
お兄ちゃんと婚約した人だよね。どうしてここに
婚約者だから、こうして普通に出入りしてるの?
その人の目線が、私の足元から頭まで辿ったのに気づいて
自分の格好を慌ててシャツで隠した
「もしかして、そういうこと…?」
「あの、私っ」
「彼は?奥にいるの?」
「マサキさんは今いなくて」
「…そう」
大きな瞳は全てを見透かしてそうで、私は視線を逸らして服を身につけた
「付き合ってたの?あの人と」
「え…あの、私は…」
曖昧な私に、勝手に納得したように
赤い唇が口角を上げ
鮮やかな花が散りばめられたネイルが視界に入った
私に近づいた彼女は、その綺麗な指先で、私の目元に触れる
「泣いてたの?
泣かされちゃった?可哀想に。好きなの?彼のこと」
なんにも答えてはないのに…
「彼を手に入れたいなら、
協力しましょうか」
「…あの?」
「仲良くなりたいと思ってたの。
未来の妹のためだもの。ね?」
薔薇みたいに綺麗な女性
どうしてだろう
敵意を向けられたわけじゃないのに、胸騒ぎがしてしまうのは…