第6章 終わりの足音
冷たい視線が刺さる中
震える声で彼女に応えた
「邪魔するつもりなんてない。
だから、俺のことは内緒にして貰えますか」
乞うような俺の言葉に、満足気に彼女の口角が上がった
「やっぱり内緒にしてたのね。
そんなに知られちゃ困るの?」
「困る…わけじゃない、けど
色々心配掛けちゃうと思うから」
「……そう。
それなら……ねえ?」
俺の頬に触れる華奢な掌
妖しげに揺れる黒い瞳
「私と翔さんが上手く行くように協力してくれる?
あの人、ガード固いのよ。子ども扱いして無難にあしらおうとするし。
表面上結婚するにしても、あんな風に扱われるのは嫌」
「協力…」
「出来るわよね?
交換条件だもの」
俺の家のことや過去を、しょーちゃんに知られたくないのは事実だけど
こんなこと……まるで、しょーちゃんを裏切るみたいで
黙り込んだまま動揺を隠せない俺に、彼女は笑みを浮かべ
突然、俺の首に腕を回した
そしてそのまま、その赤い唇を俺に押し当てる
一見、清純なお嬢様にしか見えない彼女なのに
まるで人が変わったような深いキス
不意打ちなのも相まって、拒否する間もなかった
離れた瞬間から、余裕ある素振りで俺を見下す
「これで共犯ね。
アナタの隠したい過去、ちゃんと調べることだって可能だし。
それに、わかるわよね?アナタといたってあの人が幸せになれないこと」
その通りだと思った
裏切るとかそれ以前に
このまま俺といたって幸せになるどころか、きっと不幸にしてしまう
「……俺、どうしたらいいの?」
「そうね。
私、翔さんにもっと関心を持って欲しいのよ。
だから、アナタがもし私に気があるって知ったらどう思うかしら」
「…そんなの、君に取ってもいいことないんじゃ」
「そんなことないわ。あの人プライド高いもの。
きっと、アナタの当てつけに私に優しくなるわ」
「…そんなのわからないよ。
俺も君も拒否されるかも知れない」
「どうかしら?
……それにこんなに楽しいことないじゃない。
まさか笠間グループの御子息を思い通りになるなんて。ね?」
愉しげに笑う彼女
もし拒否すれば、とんでもない仕打ちをされるのは目に見えていて
俺はこれ以上、何も言えなかった