第6章 終わりの足音
「あの…お茶でよかったですか。
それともコーヒー」
「おかまいなく。
長居するつもりないから」
部屋に通すと、彼女はソファーに座ったまま
俺の動きを目で追ってる
背後を向いてる時でさえ、その視線を感じて、嫌な予感しかない
俺に会いに来ただなんて、なんの用?
「マサキさんて…
相葉っていうの、お母様の旧姓?」
彼女の口から出た言葉に、胸騒ぎが確信に変わる
「最初はね、気づかなかった。
だって印象変わってるんだもん」
「……」
「お父様の会社のパーティー、
私も何度かお招きされた事あるの。
ご挨拶もしたんだけど、覚えてない?」
黙ったままの俺に彼女の話は次々溢れて
俺の心臓もどんどん高鳴ってく
誰にも知られたくない、心の奥底を無理矢理掻き乱されたようで……
「アナタ、お兄さんの背後で俯いてたものね。
私、将来有望な人間には目を付けとけなんて言われて育ったから…人の顔覚えるのは得意なの」
父さん……兄さん……
ふたりの顔が浮んで
俺を見る目を思い出して…
「海外にいるって聞いてたけど。
やっぱり違ったのね。色々噂があったから」
震える指先を見つめたまま、彼女の顔を見る事が出来ない
過呼吸になりそうな心理状態を彼女が知るわけもなく
延々に響く彼女の声は、確実に俺を壊してく
「実際の所、あの話って本当?
アナタのせいでお兄さんが亡くなったっていうの」
大きく揺さぶらされた心臓は、更に鼓動を増し
答えることは勿論、顔を上げることさえ出来ない
「意地悪だったかしら?
正直ね、どうだっていいの。
真実がどうかなんて。ただ……」
呆然と立ち尽くす俺を、
ソファーから立ち上がった彼女が覗き込んだ
整った綺麗な顔は、言葉と裏腹に笑顔を浮かべて
背筋に悪寒が走る
「なんの目的であの人に近づいたの?」
「……え、しょー…ちゃん、のこと……?」
「邪魔しないでね。
理想通りなのよ。何もかもね」
「邪魔なんて」
「なんとなくわかるの。
そういう関係でしょ?翔さんと」
頷いてもないのに、
彼女の言葉は確信を得ていて
俺は、動けなくなった
終わりは突然やってきたね
俺たち、
もう会わないほうがきっといい