第6章 終わりの足音
「行ってらっしゃーーい!」
「おう。行ってくるわ。
片付け頼んで悪いな」
「いいよ。ちゃんとバイト代貰ってんだから」
仕事に向かうしょーちゃんを玄関先まで見送って、
ドアの向こうに背中が消えると
うーんと大きく伸びをした
とりあえず洗い物してから、
今日は、クローゼットの片付けに取り掛かろうかな
当たり前に流れる日々
あの日から、1度も身体を重ねてない
その日は着実に近づいてた
“これでよかった”
お互いにそう思っていたから、敢えて言葉にする事はなかったし
そうする事が今の生活を穏やかにしている
「あ、こんなとこにあったんだ…」
俺のボロボロの革ジャン
だらしない、みっともないって言うから
捨てられたんだって思ってた
別に執着してたわけじゃないけどさ。
こうしてキチンと畳んで、紙袋に仕舞われてるの見ると、
なんだかんだ言ってもさ
しょーちゃんはちゃんと俺と接して
くれてんだって思う
俺の物を勝手に捨てたりしない
ホームレスだからって見下されるのはよくある事だったし
……そうなるずっと前から、
俺は存在自体を否定されてきたから
自分は誰にも必要とされてない事くらい、ちゃんと知ってる
なーんて。そんな事考えたってなんの意味もないんだから……
よし、っと気合を入れ、
用意していた段ボールに衣類を詰めてった
とりあえず片付いたクローゼットを見回して
お腹すいた事に気付いて、寝室を出ると冷蔵庫を開けた
そのタイミングでインターホンが鳴り響いて……
こんな時間の来客なんて珍しいなと思いながら、モニターを確認すると
そこに映ってたのは……
……記憶に新しい、しょーちゃんの婚約者さんで
「はい、あの……?
しょーちゃんは仕事で今いないんですけど……」
そんなのわかってるはずの時間帯なのに、
おかしいなと思いながらも、そう声を掛けた
モニター越しの彼女がニコリと、綺麗な笑顔を向ける
「いいの。開けて。
私、アナタに会いに来たの」