第5章 答えは始めから決まってる
俺の後ろをついて歩いてた彼女は、
助手席に座った途端
ハンドルを握った俺の膝に掌を置いた
それで我に返り、苛立いた気持ちを押し込める
……リビングに入ってきたマサキは、
彼女を見ても傷付いた顔なんかしなかった。ただ、驚いただけ
馬鹿な事を考えてた自分にも呆れるけど、
アイツの普段と変わらない態度に勝手に苛立っていた
彼女の掌を払い退けるワケにもいかず、…正直驚いたけど顔には出さないでやり過ごす
まだそんな仲ではないし、子供とはいえ、
それなりの家で育った彼女だから慎ましさも備わっていると思っていたけど……
「どうしたの?」
「怒ってるのかなと思って。いきなり押し掛けちゃったから」
「怒ってないよ。驚いたけどね……出来れば前以て連絡して貰えると助かるんだけど」
俺に寄りかかり耳奥に響くソプラノが耳障りで…
「だって。なかなか誘ってくれないし…こんなの今までなかったから私。
もしかしたら女いるのかも、って思って」
悪戯な瞳でくすくす笑う様は、心配して、と言うよりは楽しんでいるようだ
「いないよ。見ての通り
女っ気なんてなかったでしょ、あの部屋」
「なかった(笑)」
楽しそうな彼女に、この先思いやられるわと内心ウンザリしながら
そう言えば、女の子と付き合うって、
いつもこんな感じだったっけと他人事みたいに思う
「でも、オトコはいた」
「友達だよ」
「ふぅん」
いつの間に離れた掌にほっとしながら、車のエンジンを掛ける
美味しい物が食べたいだなんて、
好みなんか知るわけないのに、厄介な注文に苦笑い
「でも、意外」
「え?」
「あんな感じのお友達がいるって思わなかったから」
「……そう?」
「うん。……それとも、私が見てる翔さんは仮の姿だったりして」
大きな瞳が嬉々と見つめる
「……そんなことないよ」
「ほんと?」
目線を逸らし前を向くと、アクセルを踏み込んだ
……仮の姿か
“本当の俺”だなんて。
そんなの、俺だってわかんねぇよ