第5章 答えは始めから決まってる
シャワーを浴びバスルームを出ると、ドアの向こうで話し声が聞こえた気がした
バスタオルで身体を拭きながら耳を澄ませ
ああ、やっぱり誰か来てるって確信して……あの日の事が頭を過る
ちゃんだよね?
他に思い当たる人なんていない
俺らの事知って…だから、来なくなったんだって思ってた
しょーちゃんには、まだこの事言えてなかったし……
きっと、ここに来ない間に色々考えて、……覚悟して来てくれたんだよね
傷付けちゃったな、って思う反面ホッとしてる自分もいる
ちゃんは少なからず、俺に好意を持ってくれてたはずだから
これで、良かったんだと思う
乱暴に髪を拭いて、濡れた頭にタオルを被ったまんまリビングに向かった
ドアを開ける手に力を込め、そこに足を踏み入れると
そこにいたのは、
ちゃんじゃなくって
……知らない女の子だった
気が抜けたと同時に、予想外の状況に動けなくなる
「マサキ、紹介する。
俺の婚約者。藤堂有紗さん」
「あ、えっと、あの、……友人の雅紀です」
ニコリと綺麗な笑顔が向けられて、俺もつられて口角を上げた
どうして……婚約者が?
…そか。婚約者だから……急に来ても不思議じゃないよね
此処にいて、不自然なのは俺の方
「あ、お邪魔だろーから出掛けてくるよ!」
ごめんね、って上着を取ろうとした俺を、しょーちゃんが引き止める
「大丈夫。俺らが出掛けて来るから」
いつの間にか着替えて、テーブルの煙草をジャケットに突っ込んで
車のキーを手にすると、彼女に笑顔を向ける
その光景を眺めながら、行ってくるわ、の声に頷いて応えた
避けた俺の後ろのドアに消えた2人の影
俺に頭を下げる彼女に、愛想笑いを浮かべる
リビングは、煙草の微かな匂いに混じって、甘い花の香りが漂ってた
ラグの上に座り込んで
ぼんやり広い部屋を眺める
主張する残り香が存在を示す
俺は此処に居るべきじゃないって、そう言われてるみたい
戸惑う程の脱力感にやっと気付いた
何となくでいたこの場所が、
いつの間にか、しょーちゃんの部屋じゃなくって
俺の居場所にもなってたっていうこと