第5章 答えは始めから決まってる
ご機嫌なママが、珍しく自分でお茶を入れて
私の好きなパティスリーのタルトを買って来たって言うから、余程嬉しい事があったんだってわかった
「それ、ホントなの…」
「そうよ。先方のお嬢さんともお会いして、
あの子も漸くその気になってくれたから」
「お兄ちゃんが…?」
前から縁談や婚約の話は聞いてはいたけれど
それは親同士の決めた勝手な物だから、あまり現実味なかった
取り分けたタルトの皿が、私の前に置かれる。
数種類のベリーが宝石みたいにキラキラしている
いつもなら思い切りテンション上がるけど、ちっとも喜べない
「先ずは婚約パーティーで正式な発表をするから、貴女も色々と手伝って頂戴ね」
「……」
「あのマンションも引っ越さないといけないし」
「え、お兄ちゃん……あの部屋出るの?」
「近いうちに出る事になるでしょう。
先方のご意向なの。
籍入れる前に一緒に生活始めたいって」
アールグレイの香りがカップから立ち昇る。
ひとくちも飲まないまま、液体に写る自分の顔を見つめてた
じゃあ、マサキさんはどうなるの?
ただの同居人でも友達でもないじゃない。
ふたりはそういう仲じゃないの?
男同士だから……一緒になれるわけないから、別の人と結婚するの?
それとも、マサキさんとは遊びの関係ってこと?
「ちゃんも、お兄ちゃんのとこには行ってないみたいだし。
安心したわ。ママの言う事わかってくれて」
……だから機嫌がいいこともわかってた
ママは関係ない。あんな現場に遭遇しなければ、私は毎日だって通ってた
マサキさんに会いたいって気持ちは今も変わらない
ただ、どんな顔して会ったらいいかがわからないだけ
でも。お兄ちゃんが結婚したら……
マサキさんは、ひとりになる……?
複雑な気持ちが拭い去られたワケじゃないけど
芽生えた可能性に色んな妄想が駆け巡る
自分でも戸惑うくらいの腹黒い感情
…違うよ。私は狡くなんかない
男同士で幸せになれるわけない
私なら……私となら、マサキさんだって……
お兄ちゃんには出来ないけれど、
私なら、もしかしたら、
マサキさんを幸せに出来るかも知れない