第5章 答えは始めから決まってる
抱き枕があんまりゴソゴソ動くから
寝起きの悪い俺でも、さすがに目が覚めた
「……なんだよ」
「あ、起きた?…だってさー
めっちゃ引き寄せんだもん!先に起きようって思ったのに無理だった!」
緩んだ腕から漸く自由になったマサキは、苦笑いして俺を見る
「寝心地よかったんだわ。
抱き枕」
「寝返りも打てないし身体痛いってぇーコッチは!」
肩を竦ませ、うーんと伸びをしながら
愚痴を言っても顔はちっとも怒っていない
“朝起きたらいなくなってるかも知れない”
そう察して、身体が本能的にそうしたんだと思う
「オムレツ食べたいんだよね?」
「食いたい」
「じゃぁ作っとくから。
しょーちゃんはシャワーしておいで」
子供に諭すように俺のそう言って、マサキはベッドから立ち上がる
細い後姿を見つめながら、改めて思う
コイツは優しい
勝手に居なくなるなという俺の言葉を、……我儘を、
ちゃんと聞いてくれた
お前のこと、何にも知らないけど
ひとつ確かなことは、
コイツは
人の痛みをちゃんと知ってる
だから、優しいのに
何処か切なくなるんだな
俺だってわかんねぇよ
朝起きたらお前がいなくなってて
それで終わりにしてしまえば
夢だったかのように、
今までの生活に戻ればいいだけなのに
どうしてもそれが出来ない
“ギリギリまで……”
確実に近付くタイムリミットが、いつだとはっきりわかるわけじゃないけど
きっと、俺の最後の我儘だから
朝、一緒に目覚めて
オムレツ食って、マサキの入れたコーヒー飲んで
休暇のあいだ
俺らはまるで恋人同士みたいに過ごした
そして、予想通りに世界は動き出す
これまでの人生ずっとそうだった
俺の意図とは別の所で未来は決められてる
社長である父親に呼ばれ、
其処に居たのは、俺の婚約者らしい
「私、嬉しくて!
翔さんが、前向きに考えて下さってるってお父様に聞いて」
「違うんですよ。
息子に貴女のような方は勿体無いと思っていただけで……そうだな?翔」
「そうですね。
私には勿体無いお話で」
そう言って笑って見せると
初めて顔を合わせた俺の未来の花嫁は
嬉しそうに微笑んだ