第4章 ありふれた日常
お昼に合わせて、お弁当を作って
新しいワンピースとコートを着て、鏡の前で何度もチェックする
お兄ちゃんは仕事だから、マサキさんはひとりで家にいる
冬休みの間は、毎日お昼を持って行こう
お兄ちゃんは適当にやるからいいって言うけど、それくらいしたい
怪我させたくせに、それさえ利用して最低だって思うけど
縋らないと、会う理由が見つからない
どんな理由でも、やっぱり会いたい
それに……
マサキさんはふらりと何処かへ行ってしまいそうで怖かった
「ちゃん。
どこ行くの?お弁当なんか作って」
「ちょっと友達と
遅くならないように帰るから」
「……そう。行ってらっしゃい」
ママに目も合わせず、マンションに向かった
途中で花屋さんに寄って、可愛い白い花のブーケを作って貰う
お兄ちゃんの部屋は殺風景だから、お花を飾ったら少しは明るくなるのに
インターホンを押して数秒
聞こえたマサキさんの声
お兄ちゃんの部屋に来ただけなのに、こうして迎えて貰うと
まるで彼に会いに来たみたいでドキドキする
「ごめんね。忙しいのに」
「そんなことないです!
やって当然ですから!」
「そんな気にしないでいいって」
キッチンでスープを作りながら、
優しいマサキさんの言葉に泣きそうになる
「…どうしてあの時、私が彼処にいるのわかったんですか?」
準備を手伝ってくれてたマサキさんに、迷いながらも聞いてみた
マサキさんは静かにグラスを置き、戸惑うこともなく話し出す
「たまたまね。電話してんの聞いたんだよ。
“マサキって男探してたオンナ”とか
ヤるとかナントカ言ってんのをね」
「……」
「そーゆう悪いヤツばっかいるとこ、俺よく出入りしてるから。
だから、ダメだよ?俺みたいなヤツに騙されちゃ」
笑顔を見せるけど、その瞳の奥は笑ってない
哀しい色を宿してて、そんな風に自分を卑下するマサキさんが切ない
「…ホントのマサキさんは、
そんな人じゃありません」
出来上がったスープの湯気が、張り詰めた空気に溶ける
「…ホントの俺ね」
私が飾った白い花を見つめて、意味深にそう呟いた
私は、どうしたらこの人に
近づけるのだろう