第4章 ありふれた日常
「ねぇ…ホントに大丈夫?」
俺だってそんな得意ってワケじゃないけどさ
普通に、ある程度の家事は出来る
だけど、しょーちゃんはホントに今まで家事なんてしてこなかったのがよくわかるよ
朝ご飯作るって気持ちは嬉しいけど
「うわっ、アッチィ!ちょ、やべーっ」
熱したフライパンにバターを入れて、やっと卵を投入したのに……
(卵を割るだけでも大変だった)
バターが跳ねたって大騒ぎしてる
「俺、かわろっか?」
「バカ!手ぇ怪我してんだから、黙って座って待ってろって!」
「だって!」
絶対、それでも俺のがマシだと思う……とは言えないけど
妙に力の入ったカチコチの後ろ姿が可笑しくて、コッソリ笑った
「いただきます」
「……イヤ、食わなくてもいいよ別に。
パンもあるしさ」
白い皿に乗ったオムレツと呼ぶよりは、スクランブルエッグのような黄色い?物体
眉を下げてホントに申し訳ないって情けない顔して
でもね。しょーちゃんだって、
俺が作った焦げたオムレツ、ちゃんと食べてくれたよね
「うん。おいしい(思ったより)」
「まじ?……大丈夫?」
「うん。大丈夫(殻入ってたけど)」
向かい合わせに座って
一緒に朝ご飯食べて
これが当たり前だと思える光景になったわけじゃないけど
ふたりに静かな空気が流れて、穏やかに時間が過ぎてく
だけど、その感覚に少しの息苦しさと戸惑いを抱いていてたのもホント
……なのに擽ったい、あったかい何かが
頑なだった俺らの闇を溶かしてる、そんな気がしていて
「無理しないでゆっくりしとけよ。
早めに帰ってくるし。
も来るって」
「…大したことないのに」
「アイツが勝手に来たがってるだけだからさ」
「……うん」
スーツに着替えて、急いで出掛けたしょーちゃんを玄関先で見送って
ひとりきりになった広いリビングを見渡した
このままこうしてていいのかな。
怪我の治らない内は納得してても、傷が癒えてしまえばまた、
別の問題が生じてしまうんじゃないかって、胸ん中がざわついた。