第4章 ありふれた日常
溢れてた涙が
また、ぶわっと一気に零れた
「あーあ。
泣いちゃって」
私の前にしゃがみこんで
くしゃっ…と、頭を撫でる
「誰だ!オマエ」
部屋に響く、甲高い声
興奮して叫んだ男を無視して、
私の拘束を解いていく
「"マサキ"を呼んだんじゃないの?
だから、来てあげたんだけど?」
自由になった手首を掴まれ、立ち上がらせられると
掌を手繰り寄せ、握りしめてくれた
「だから、連れて帰るね。この子」
「……てめぇ、なに言って……」
「なにってさ…」
向かってきた男は
ナイフを持ち上げ、脅すように目の前に翳した
興奮した面持ちで、それを振り回す
なのに……
ぎゅっと目を閉じた私が、
ゆっくり開いた視界に飛び込んだのは…
向けられた刃先を掴んでるマサキさんだった
「きゃ…ッ…、や…マサキさん!」
パニックになる私を他所に、マサキさんの表情は変わらない
「ナンだよっ、」
ナイフを手にしてた相手の方が、
真っ青になって、怒鳴り出す
ポタポタと滴る赤い血が、
薄汚れた板張りに染みを作る
「こんなの、怖くないから俺」
口元を緩め、声さえ荒げもしない態度は
逆に脅威に映った
「……っ、
俺が、やったんじゃねーからなっ」
男は、血のついたナイフを手放し、
アワアワと部屋から飛び出して行った
無機質な音を発て
ナイフが落ち
同時に、私を握り締めたマサキさんの掌が離れて
ぷらんと投げ出された
振り返ったマサキさんは
声を掛けるのを戸惑うくらい冷たい瞳をしていて、
私はその場で動けなくなってしまった