第6章 体育祭
私は控え室に向かう。
この対決のあとはすぐに私だから、急ぎ足だ。もう時間もないし、このまままっすぐフィールドのところまで行ってしまおうか…
そんな考えで歩いていると、目の前から誰かが歩いてくる。
それは、先ほど試合を終えた…
『轟くん!』
彼だった。
彼は私に気づいていたのか、無言でこちらに歩み寄ってくる。
そして
ガバッ
『っ!』
轟「…ッ…使うもんかって、思ってたのに…」
轟くんは私を強く抱きしめ、苦しげに語り出す。
轟「あいつが、あんなこというから…!!…本気で、ヒーローになりたいから…!」
『…うん。じゃなきゃ、轟くんはあの試合で心を動かされなかった。
轟くんのヒーローになりたいって気持ちは、きっと理屈じゃないんだよ』
轟「…俺はっ……」
『今すぐじゃなくていい。ゆっくりでいいよ。あなたの、最高のヒーローになる選択肢は、そんなにすぐ逃げたりしないから…』
肩が震えている。戦っている時は感じなかった動揺や怒り、いろんな感情が一気に押し寄せてきているのだろう。
私は彼に手をまわし、そっと頭をなでる。
とてもやわらかい、彼の髪を。
轟「…!!…お母さん以外に、頭撫でられたのなんて初めてだ」
『イヤだった?』
轟「イヤじゃねえ…落ち着く」
轟くんはさらに私を抱き寄せる。
轟「やっぱ俺、お前が好きだ」
『!も、もう…今いわなくても…!』
轟「今、すげえ好きだと思ったんだ」
『っ!と、轟くんてほんと…恥ずかしげもなくよくそんなストレートに言えるね!』
轟「この気持ちを恥ずかしいなんて思わねえ」
そういうまっすぐなところは緑谷くんに似てる。
…なんて、今言ったら彼は機嫌を悪くするだろうな。
『…焦凍くん』
轟「!!」
『って呼んでもいい?まずはそこからはじめるから』
轟「ああ…ありがとう、マナ」