第5章 emergency
あれは、中学に入りたての頃だったと思う。
その日は部活動見学で電気がいなかったから、珍しく私は1人で下校していた。そんな時、後ろから肩を叩かれて振り返ると、大きな顔の男の人がヨダレをたらして私を見つめていた。あまりの恐怖にひっ…!と声にならない叫びをあげて走り出したのだが、走る私を追いかける男はしつこく、まだ土地勘の無かった私は行き止まりに追い詰められた。
『ひっ…こないで!』
「可愛い…うまそう…!」
私に迫る男はよくみると大きな体で、奇妙な体をしている。怖くて、足が震えて逃げることもままならず…このまま死んでしまうのか、と思った。
「ボクが君を食べれば、ずっと、一緒にいられるね…!」
やめて、こないで、いやだ。
人間を人間が食べるなんて、何を考えているの。貴方と一緒になんていたくない!
そうは思っても逃げることも攻撃することもできず、ただただ、少しずつこちらに近寄る男を震えてる待つしかなかった。
『誰か助けて!!』
全身の力を振り絞ってなんとかあげた声は、思ったよりも小さかった。これでは誰にも届かない、と絶望していた、そんな時だった。
私を追ってきた男が、ガッ!という鈍い音とともに一瞬のうちに地面に伏した。何が起こったのか、と考える間もなく、私を追ってきた男とは違う男の人が、あいつを縄のようなもので縛ってからこちらに歩み寄ってきた。地面にペたりと座り込む私に目線を合わせるように、その人もしゃがんだ。
「…無事か」
『は、はい…』
「ならいい」
それだけ言ってその場をすぐに去ろうとする男の人。私はその人の腕を勢いよく掴んだ。
『待ってください!あの、あなたは…?』
「…ヒーロー…"イレイザー・ヘッド"だ」
『ヒーロー……
私にも、なれますか?あなたのような、人を救えるヒーローに』
「なれるかどうかは俺が決めるんじゃないよ」
じゃあな
そう言って、敵とともにその場を去って言ったヒーロー。その場に立ち尽くす私がふと、地面に落ちたあるものを拾う。
『猫の…キーホルダー?』
可愛らしいキーホルダーだった。もしかして、あの人の?ちょっとイメージが違うから、あの人の物ではないのかもしれない。けれど…これが唯一、あの人との繋がりになるかもしれない。私がヒーローを目指した、きっかけの人。あの人にいつか、直接渡すことができると信じて。
