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雛鳥は鶴に化けました

第1章 *





19時をとっくに過ぎて帰り道、ほろ酔い気分の友人二人は言う。

「アンタ、弟離れしなきゃだめだよ」
「これから先ずーっと一緒なわけじゃないんだしね。就職して一人暮らしするんでしょ?」
「うん…」
「いい機会だと思ってさ。弟離れ姉離れしないと。雛鳥だって巣立っていくんだよ」
「巣立っていく…」

その言葉を聞いた瞬間、初めて会った時の鶴丸の笑顔を思い出した。あの時から鶴丸は私の大切な弟で、雛鳥が懐くようにずっとべったりで。でも、そうだよね、雛だって大人になるんだよね。すとんと胸に落ちた言葉に覚えたのは、とてつもない寂しさだったけれど。それに気付かないふりをして、私は家の玄関を開けた。

「遅い」
「っ!」

いかにも不機嫌です、怒ってますという顔の鶴丸が、暗い玄関に腕を組んで仁王立ちしていた。3月で暖かい日も増えてきたとはいえまだ冷える。風邪をひいてしまうと言ったが、そんなことはどうでもいいと吐き捨てられた。

「どこに行っていたんだ」
「友達と飲みに行ってて…」
「連絡もせずにか?」
「え、と、携帯の充電きれちゃって…」
「充電器なんてコンビニでも買えるだろう」
「あ、そ、そうだね。ごめん、思いつかなくて…」
「……………」
「つ、鶴丸?」
「まあ、いい。このままじゃ風邪をひく。姉さんは風呂に入れ」
「あ、うん」

何とか誤魔化せたかな、とほっと胸を撫で下ろして靴を脱ぐ。脱衣所へ急ごうとするあまりなかなかうまく脱げなくて、そうしていたら目の前をひらひらと落ちていく紙。鶴丸がさっとそれを拾い上げて、形のいい眉を吊り上げる。先程の男性からの連絡先だと気付いた瞬間、血の気が引いた。

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