第1章 *
ピーンポーン
チャイムの音に、呼んでいた本を閉じて玄関まで向かう。一人暮らしを始めてもう3ヶ月、慣れてきた頃だったので外を確認せずに扉を開けた。そこに立っていたのは、
「鶴丸…」
「おいおい、ちゃんと確認してから出ないと危ないぜ。女性の一人暮らしなんだからな」
やれやれと微笑む鶴丸は、最後に見た時より少しやせたように思えた。でも穏やかな物言いや態度はいつもの鶴丸で、知らず知らず肩に入っていた力が抜ける。立ち話もなんだからと中に招き入れた時、鶴丸の持っていた大きなボストンバッグに気が付く。
「あれ、どうしたのその荷物」
「ああ、これか」
重たそうなそれをどさっと床に下ろし、鶴丸はカーペットの上に胡坐をかく。そっとバッグを撫ぜる仕草がやけに色っぽくてドキリとしたが、次いで向けられた熱のこもった眼差しに言葉も引っ込んだ。
「今日から姉さんの家で暮らすことになった。どうだ、驚いたか!」
「……え?」
「親父を説得するのに骨が折れてな、予定よりはだいぶ遅くなったが…転入手続きも終えてるし、何も心配はないぜ」
からからと笑う鶴丸に、言葉を失う。意味は解らなくてただ立ち尽くす私の手を引いて鶴丸はぎゅっとその胸に抱き込む。細いと思っていたその中は存外逞しく、私を離さないとばかりに巻き付いてくる腕に身動きすら取れない。
「今までは手加減していたが、今日からは遠慮なくいくぜ。そのために親父を説得したんだ」
「ちょ、」
「悪い虫がつかないように、これからも俺が見張っていないとな。姉さんは少し無防備過ぎる」
「つるま、」
「なあ、姉さん」
私の顔中に口付けを落としながら、呆然とする私に言い放つ。
「雛が鶴に化けたんだ。もう逃げられないぜ」
甘く甘く囁くその声に、食べられたのは言葉かそれとも、