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雛鳥は鶴に化けました

第1章 *





鶴丸とはちょうど六つ歳が離れていた。私が中学校に入学すると同時、鶴丸は小学校へ入学。幼稚園への送り迎えは私が担当していたが、今度鶴丸は学校へ一人で行くこととなる。そのうちたくさん出来た友達と飛び出していくんだろうな、なんて少し寂しく思ったり。入学式の日、ピカピカのランドセルを背負って私に写真をせがんでいる姿を見ると、親バカならぬ姉バカになりそうだ。今まで母子家庭で一人っ子の暮らしを続けていた私にとって、初めてできた弟は自分の子供のような感覚で世話をしていたように思う。母もそれを分かっているのか、私にべったりな鶴丸に呆れつつも好きなようにやらせてくれた。鶴丸は儚い見た目にそぐわずなかなかな悪戯っ子で、でも常に笑顔を絶やさない太陽のような子だった。だから私が中学校へ登校する初日、玄関で「行ってきます」を告げた時の鶴丸の絶望した顔は、一生忘れないだろう。

「やだ!やだ!」
「鶴丸くん、お姉ちゃんは中学校へ行くのよ。鶴丸くんはこのあと小学校に行こうね」
「やだ!おれもおねえちゃんといっしょにいくううう!!!」
「鶴丸くんは小学生だから、中学校へは行けないのよ」
「やだああああおねえちゃああああああん」

ビービ―泣きながらぐしゃぐしゃの顔で私に泣きつく鶴丸。後ろで困り果てる父と母。私も暫くは背を撫ぜて宥めていたが、さすがにそろそろ出なければ入学早々遅刻してしまう。しがみ付く鶴丸に心を切り裂かれそうになりながら必死で引き剥がし、サッと玄関を開けて外へ出る。家の中からものすごい泣き声が聞こえてくるが、心を鬼にして中学校まで走った。今でもあの時の鶴丸の泣き声は、耳に残っている。そう思い返す度に鶴丸は顔を真っ赤にして「忘れろ!」と慌てるが、可愛い雛鳥の姿を忘れてたまるか。

ちなみにこの朝の攻防は「鶴丸が中学生になったら一緒に行こうね」という魔法の呪文で終結したかに見えたが、六つ離れてる以上どう頑張っても一緒に登校は出来ないと賢い鶴丸が気付いた日の大惨事はさすがに思い出したくない。

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