第1章 *
小学六年生の時、母が再婚をした。実の父親は私が物心つく前に病気で亡くなっていたため、今まで母は女手一つで私を育ててくれたのだ。そんな母から再婚の話を聞いた時、寂しくは思ったけれど反対をするつもりは毛頭なかった。寧ろ、これでようやく母にも寄りかかることのできる人が出来るのだと安心してしまったあたり、今思い返しても私はだいぶ子供らしくない子供だったと思う。初めて会った相手の男性―――これから私の父になる人は、とても優しくて、素敵な人だった。背が高いのにわざわざ私の目線に合わせてくれて、微笑みながら挨拶をして手を差し伸べてくれたのだ。物心ついてから初めてできた『父親』という存在に、少し恥ずかしさもあり、けれどしっかりとその手を握り返した。今でも父とは良好な関係を築けていると思う。この人なら大丈夫、無条件にそう思える様な人だったから。
そして、その父の後ろから恐る恐る様子を伺う小さな子供こそ、私にとって初めての『弟』に間違いなかった。色素の薄いサラサラの髪に、くりくりとした輝く瞳、ふっくらと色づいた頬に、恥ずかしそうに伏せる長い睫毛。父のズボンを小さな手できゅっと握り、促されて私の前に出された子供。泣き出しそうなその表情に庇護欲が擽られ、知らず知らず浮かんだ笑み。ゆっくりしゃがんで、目線を合わせて、驚かさないように、怖がらせないように。
「初めまして、鶴丸くん。今日からあなたのお姉ちゃんになります」
よろしくねと。そっと握り締められた両手を包めば、泣き出しそうに潤んだ瞳がぱちぱちと瞬きをして。次の瞬間花が咲く様に笑い、私の胸へと飛び込んでくる。
「おねえちゃん」
舌足らずな言葉で近付き予想より強い力でしがみ付かれ、抱き返す。恥ずかしそうに笑う小さな小さな雛鳥に、私は見事ハートを撃ち抜かれた。