<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第246章 『だめ』は聞かない ― 家康&姫 ―
「あっ、わさび、大丈夫かな…」
あくまでわさびを気にする舞におれは言う。
「あの調子なら大丈夫だと思う。それよりほとんど食べられちゃったみたいだね」
「えっ、あっ、本当だ」
おれに言われてかごを覗き、ようやく気付いた舞は「あーあ」と小さくつぶやいた。
「また摘むの?」と聞くと「うん、まだ咲いているし」と切り替えた明るい声が耳に入る。
あんたのその頭の中もお花が咲き乱れているようだね、と内心思いつつ、でも何事にもめげることのないその明るさにおれは何度も励まされてきた。
「どのお花?おれも手伝うよ」
おれの言葉に舞は驚いたように目を丸くしてこちらを見る。
「え、いいよ、いいよ。家康、仕事中なんでしょ?ひとりで出来るからお仕事に戻ってよ」
おれを気遣う様子に、おれは更に言う。
「大丈夫だよ。ちょっと気分転換もしたいと思っていたし。お花、どれを摘むの?」
おれが本当に花摘みを手伝うとわかると舞は嬉しそうに言う。
「あのね、本当は家康ともうちょっと一緒に居たいなって思ったから、手伝ってくれるの嬉しいな」
その言葉におれのほうがくらりとする。
ああ、どうして、そう、可愛い言葉をへらりとした笑顔で言うのかな。
おれはその様子に、かきむしられるようなじりじりとした熱をからだの奥に発してしまう。