<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第235章 愛は昇華する ― 姫&謙信 ―
お誕生日のお祝いは特に何もご希望の無かった謙信様に、それでも私は何か残るものを渡したくて、手拭いに上杉家の紋を刺繍したものを用意する事にした。
浅葱色の手拭いを城下の布屋さんで購入し、謙信様のいらっしゃらない時を狙って少しずつ刺繍を施していく作業は、いつ勘の鋭い謙信様に見付かってしまうのかと思いつつ、それでも喜んでもらえたらな、と心を躍らせつつ縫い付ける。
そしてお誕生日の前日に、見付からずに無事に紋を縫う事が出来た。
『喜んでもらえるといいな』と裁縫道具を片付けながら顔をほころばせたのを、ちょうど部屋に戻っていらした謙信様に見られてしまう。
「何をそんなに嬉しそうにしている?」
謙信様に手拭いのことはせっかくだから、今はまだ知られたくない。
とっさに私の口から「明日のお誕生日のお祝いが楽しみなんです」と半ば本当の事を言い、それを聞いた謙信様の目が「ほぅ…」と細められる。
どうしよう、嘘をついたと思われたかな、でもそれも本当の事なんだよね。
謙信様はでも、それ以上の事を追及せず、ぼそりと「俺は派手に祝わずとも、おまえと二人で祝えれば良い」と私が喜ぶ事を言ってくださった。
「ありがとうございます。でも家臣の皆さんも謙信様のお誕生日をお祝い出来るのを楽しみにしているんですよ。だからちゃんと皆さんとお祝いしましょう」
急いで家臣の皆さんも楽しみにしている事を強調した。
思った通りの華やかなお誕生日のお祝いに、謙信様も結局は楽しそうに過ごされ二人で部屋に戻ってくる。
戻ってから私は謙信様の前に座り、お祝いの言葉と共に手拭いを渡す。
「謙信様、お誕生日おめでとうございます。私からのお祝いです」