<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第176章 Impossibility ― 顕如&姫 ―
「顕如さん、生きてください。生きて、亡くなった同胞のかたたちを弔っていけば良いじゃないですか。顕如さんが生きていなければ、誰が亡くなったかたを弔っていくのですか?」
そうかもしれぬな、しかし私が死ねば私たち全ては忘れ去られる者となるだろう。
舞、おまえの名を呼ぶ事はせぬ。
未練を残すのは触わりとなるであろう。
私のこの奥底にひそむ願望を現すならば、舞の温かなからだに触れ、折れるほど抱き締めたい。
しかし触れてしまったら、引き返せぬ、死んだ同胞を裏切る事になるであろう。
それを私は、気付いてしまったからこそ、舞が私のために美しい涙を流すのを見つめるだけなのだ。
さらばだ、舞、私はこの身を悪鬼に変え、信長を恨んで死んでいく。
おまえのような美しい娘が側に居てはいかぬ。
「私をこれ以上説得しても無駄なのはもうわかったであろう」
「嫌です、わかりません」
すると、舞はがちゃりと鍵をはずし、牢の中に入って来るではないか。
「…どういう事だ…」
「銅貨を渡して、番人の人から鍵を借りました。勿論顕如さんを逃がすつもりはありません。ただ私が牢の中に入りたかったからです」
そうして舞は自ら着物の帯を解き、着物を脱ぎながら私へ近寄ってくるではないか。
「…近寄ってはならぬ…」