<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第176章 Impossibility ― 顕如&姫 ―
私は反対に後ずさりして狭い牢の壁に背中が当たる。
目の前に腰巻ひとつの姿となった舞が立っていた。
美しい白い肌が暗い牢の中でも輝くばかりの色香を放っている。
「近寄ってはならぬ、すぐ戻りなさい」
私は繰り返すが、舞は薄汚れた私に裸体姿のまま抱き着いてきた。
「駄目だ…離れなさい…私はこんなに汚れている…しかも人殺しの鬼なのだ…」
私は舞のからだに触れる事も出来ず、うろたえるように言うのみだった。
「嫌です…一度だけ…顕如さん、私に情けをください」
「何故だ…私は鬼だ…情けが欲しければ、信長たちに頼めば良かろう…」
「信長様たちでは私を静める事は出来ません。顕如さんの悲しみを知ってしまったから…顕如さんの生き様を知ってしまったから…もう会えないなら猶更一度の情けを私にください…お願いします」
舞、おまえの名は呼ばぬ…それでも良いのなら…ただ一度の契りを交わそうぞ…
真剣な舞の瞳に、私は自分の顔を映し見る。
「本当に一度の契りで…良いのだな…」
「…はい…顕如さん…それを思い出に…私は生きていきます…」
涙と笑顔を一緒に見せる、美しい舞の裸体を抱き締める。
想像したからだの温もりを自分に移し、私の冷めた温度を舞からもらった熱で高めるとする。
ただ一度の儚い運命の契りを、互いに熱を溶け合わせ、二人で感じいるのだ。
<終>