<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第176章 Impossibility ― 顕如&姫 ―
どこへでも行ければ、しかし、それは叶わぬ夢なのだ。
「おじょうさん、もうここには来てはいかぬ」
私はおまえを愛する事は許されぬ身なのは、今、私が牢に入っているからわかるであろう。
目の前で、格子の向こう側にたたずむ娘は、大きな瞳に涙を溜め、じっと私を見ていた。
「顕如さん…信長様に誓ってください。これからは人を恨まず、ひとりの顕如という人としてこの時代を生きていくという事を。そうすればここから出られ、自由になれます」
「おじょうさん…おまえの言う事はわかるが、私は恨みの権現となったのだ。同胞をいくたりも失った私が、彼等を忘れ、穏やかに余生を過ごすという事は出来ぬ」
「でも、でも…このままでは顕如さん、生きていられないと思います」
そうだろう、私も思う。
牢の衛生状態は良いとは言えず、じめついた地はかびくさく、ほとんど陽もささぬ。
そして与えられる食事も一日一度、薄い粥のみ。
「私はここで同胞の怨念を背負って、死ぬまでここで信長を恨み続けるのだ。だからおじょうさん、おまえはもうここへ来てはならぬ。ここはおまえのような者が来る場所ではない」
「そんなの嫌です!」
即座にかえってくる舞の返事は、実を言うと私の心の底では、その否定を嬉しく思う部分が有る。
私は自分だけが幸せを掴んではならぬ身でありながら、舞が私を気遣ってくれるのが嬉しいと思う気持ちをまだ持っていたようだ。