<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第150章 忘れないで ― 姫&家康 ―
貴方は本当に何もかも忘れてしまったの?
私を心から愛してくれた事も思い出してもらえないと思いつつ、悲しみを私は堪える。
わさびは少し撫でてもらうと、またトコトコと離れてしまう。
「あ…わさび、行っちゃった…」
そして、私は次の貴方の事を教える。
「薬の調合が上手なのよ?」
「俺が?薬を作れるの?」
「うん、自分で配合してお薬を作ってしまうんだよ。私も何度も軟膏をもらったよ」
「軟膏…」
ぽつりと家康はつぶやき、自分の両手を見つめて立ち尽くす。
その姿は、自分を見失って、今迄の自分の生き様を追い掛けるのに必死な一人の青年。
私ではちからになれないのかな。
私は不安定な翡翠色の瞳を揺らす家康の両手を握って言う。
「あの、私では駄目かもしれないけれど、記憶を思い出せるように出来る事は手伝うから、言ってくれる?」
家康は驚いて言う。
「どうして…貴女がそこまでやってくれるの?貴女は俺の何か…特別な人?」
そうだよって言いたいよ。