<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第150章 忘れないで ― 姫&家康 ―
でも混乱させたらいけないから、今は言えない。
『愛してる、家康、愛してる』
そう言って貴方の胸に飛び込みたい。
「私、貴方からとてもお世話になったの。だから記憶を戻す手伝いを御礼にしたいんだ」
明るくふるまい、何気なさを装う。
大丈夫、涙が出そうだったけれど、流さないよ。
家康の記憶が戻るように、戻るための工程に負担が大きくならないように。
少しずつ、大切な記憶から伝えて、頭の中を整理しつつ今迄をつなげてゆく。
記憶がつながった時、貴方は私をどう、思う?
今と同じよそよそしい人になってしまう?
それとも少しは私の事を気に掛けてくれる?
忘れないで、私の事を。
どんな事があっても、そう願っていたけれど。
だから、貴方の記憶が戻るまで、私は貴方の側にいて、そっと貴方を守っていく。
「俺は徳川家康…弓が得意…小鹿のわさび…薬の調合」
教えた事を繰り返し記憶しようとする家康の姿は、切なくて苦しい。
どうやったら全てを思い出せるのかな。
私の犠牲で貴方の記憶が生きるなら、私は何度でも命を差し出すから、だから、お願い、思い出して、全てを、そして、愛した私を。
<終>